チーム学習の実践において役に立った書籍3選(後編)

チーム学習の実践において役に立った書籍3選(後編)

前編では私がチームマネジメント、チーム学習を研究するにいたった経緯と、おすすめ書籍1冊目『モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか』をご紹介しました。今回は、おすすめの2冊目、3冊目について紹介します。

【推薦本②】 チームが機能するとはどういうことか

チームが機能するとはどういうことか
『チームが機能するとはどういうことか』
エイミー・C・エドモンドソン著, 野津智子訳
英治出版/392p/2,420円(税別)

気になった箇所に付箋を貼りながら読んでいくと、付箋だらけになってしまった一冊。これまでに読んだ他の関連書籍と符合する部分も多く、納得と発見が多かった本です。

本書の特徴は、機能するチームはどうあるべきか、特にリーダーの振る舞いに関して具体的に、かつ広範に論じられている点です。

著者はエイミー・C・エドモントン氏で、ハーバード・ビジネススクール教授で教鞭を取り、リーダーシップや経営論を専門とすることで知られています。近著に「恐れのない組織――「心理的安全性」が学習・イノベーション・成長をもたらす」があります。

第1部 チーミング

第1章 新しい働き方

最初に「チーム」に対比して「チーミング」という特徴的な言葉の定義が説明されます。

うまくデザインされたチームには、明確な目標をはじめ、共同作業を促す熟慮された仕事、その仕事に見合う適切なスキルと経験を持つチームメンバー、十分な資源、そして指導や支援を受ける機会が備わっているのだという。適切にデザインせよ、そうすれば、パフォーマンスは自然とついてくる、というわけだ。

こうした説は、固定で時間をかけてうまくデザインしたチームを作ることができた過去のものであり、名詞の「チーム」となります。一方で、

チーミングは動詞だ。それは、境界のある固定された集まりではなく、動的な活動である。効果的なチームのデザインや構造によってではなく、チームワークという考え方やその実践によって主に生み出されるものである。
チーミングは、休む間のないチームワークだ。それは、安定したチーム構造を持たないまま一丸となって動き、協働することを伴う。

例として挙げられるのは、病院や軍事施設など、固定化したスタッフ配置が難しい職場です。たしかに我々の仕事は、そこまで「時々刻々と仕事が変わる」ものではありませんが、チーミングという動詞を用いる考え方は非常に有効です。

めまぐるしく変わる職場環境に必要なのは、チーミングの仕方を知っている人、すなわち協働する可能性がある瞬間に、時間や場所を選ばず行動するスキルと柔軟性を持っている人だ。

チーミングとは、組織学習の原動力であり、プロジェクトごとに構成メンバーが変わるような職場環境で、協働し成果を上げていくチームワークの考え方や実践によって生み出されるものです。

チームが集団として学習できている時、個人は次のような行動をとることが一般的とされます。

①質問する
②情報を共有する
③支援を求める
④証明されていない行動を試みる
⑤失敗について話す
⑥意見を求める

また、“実行するための組織づくり”と“学習するための組織づくり”は似て非なるものです。リーダーが後者のアプローチを採用するとき、ライバルより効率的に製品を生み出すことではなく、ライバルより早く学習することに重点が置かれるため、「学習しながら実行する」ことが選択されます。

第2章 学習とイノベーションのためのチーミング

仕事の連携が取れている場合、以下のようにチーミングの流れを整理することができます。

チーミングの流れ
1. チーミングの必要性を認識する
2. 個人と個人がコミュニケーションを図る
3. 手順や相手に任せるべきことを調整する
4. 相互依存の行動をとる
5. 省察/フィードバック
6. チーミングの考え方が身につく
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成功しているチーミングが伴う4つの行動として、筆者からは、①率直に意見を言う、②協働する、③試みる、④省察する、の4点が提示されており、特に①については過ちについて話すこと、④については行動本位のものであることが良しとされています。

チーミングに不可欠な協調的行動は、チームの中に緊張や対立を生む場合もあります。それらが発生したときに、緩和し協調的な取り組みができるようにするために以下の戦略が提示されています。

①対立の性質を見極める
②優れたコミュニケーションを具現化する
③共通の目標を明らかにする
④難しい会話から逃げずに取り組む

これらを踏まえ、リーダーは、チーミングには時に何らかの対立が必要であり、むしろ望ましくさえあることを理解し、自分の役割を積極的に検討することが求められます。

続けて、チーミングを促進する4つのリーダーシップ行動は以下の4点に集約されています。

①学習するための骨組みをつくる
②心理的に安全な場をつくる
③失敗から学ぶ
④職業的、文化的な境界をつなぐこと

第2部 学習するための組織づくり

第3章 フレーミングの力

ここでいわれるフレーミングとは認知フレーム、ものの見方を指します。仕事を「学習する場」として捉えるか、それとも「作業する場」として捉えるかによって、リーダーの振る舞いやプロジェクトの状況を比較することが可能です。

例えばリーダーが重要な変化を達成するために「自分はメンバーと相互依存している」と定義し、メンバーを重要なパートナーだと考え、向上心を刺激する目標を明示する場合、そのリーダーは学習フレームを使っているといえます。

(一般的に学習フレームの対比にあたるのが実行フレームで、こちらは固定化したメンバー構成、仕事を熟知した構成員によって、毎回同じように仕事を実行することが重視されます。)

第4章 心理的に安全な場を作る

職場環境で直面する4つのイメージリスクとして、①無知だと思われる不安、②無能だと思われる不安、③ネガティブだと思われる不安、④邪魔をする人だと思われる不安が挙げられます。

チーム内でメンバーが相互信頼できない場合、上記の要素が意見表明などのメンバーからの重要なアクションを妨げ、パフォーマンスを落とすことにもつながります。

チームに心理的安全があれば、厳しいフィードバックを伝え、受け止め、困難な話し合いをすることが可能です

そのためには、これまでに述べたようなチーミングが実行できており、メンバーが互いに信頼と尊敬の念を持っている状態である心理的安全性が必要です。本書では、心理的安全を高めるリーダーの行動として以下の要因などが言及されています。

①(リーダー本人が)現在持っている知識の限界を認める
②自分もよく間違うことを示す
③失敗は学習する機会であることを強調する
④具体的な言葉を使う
⑤境界を設ける(どんな行為が非難に値するか基準を明確にする)

第3部 学習しながら実行する

第7章 チーミングと学習を仕事に活かす

学習しながら実行する場合、リーダーには「答えを与えるのではなく、方向性を定める」ことが求められます。方向性を定めるとは、組織にとって最も重要な優先事項を述べることです。

目標は、今日の利益を勝ち取ることではなく、長期的な価値を生み出すことに置かれます。また、優れた企業や組織とは学び続けるものであり、「われわれは何を学ぶことができるか。もっとうまくできることはないか」と自らに問いかけるものだとしています。

ここでは紹介しきれませんが、病院や工場、NASA、トヨタからチリのサン・ホセ鉱山落盤事故での救出劇まで、本書にはチーム活動の事例が数多く登場します・実際の事例をもとに理解を深められる点も本書の魅力の一つといえます。

【推薦本③】 学習する組織

チームが機能するとはどういうことか
『学習する組織――システム思考で未来を創造する』
ピーター・センゲ 著、枝廣 淳子 他訳
英治出版/584p/3,850円(税別)

本書は1990年に出版された『最強組織の法則』の改訂版として2011年に出されました。「組織開発のバイブル」とされており、著者のピーター・センゲ氏の名前は他の本でも度々引用、言及されています。

今回私が読んだ書籍の中でも論じる内容は際立って広く、かつ深い点が特徴的です。ただ総ページ数が600ページもあり、一読して内容を完全に理解することは難しく、折に触れ立ち戻りたい1冊と考えています。

著者のピーター・センゲ氏はマサチューセッツ工科大学(MIT)経営大学院上級講師、組織学習協会(SoL)の創設者です。旧来の階層的なマネジメント・パラダイムの限界を指摘し、自律的で柔軟に変化しつづける「学習する組織」の理論を提唱。20世紀のビジネス観略に最も大きな影響を与えた1人と評されています。(「BOOK著者紹介情報」より)

著者は「学習する組織」には以下5つのディシプリン(実践するために勉強し、習得しなければならない理論と手法の体系)が必要であると説いています。

①自己マスタリー
②メンタル・モデル
③共有ビジョン
④チーム学習
⑤システム思考

とりわけ、⑤システム思考は他の4つを統合し、理論と実践の体系をつくる要となるものであり、本書もその説明からはじまります。

システム思考では1つの現象を単純な因果関係では捉えずに、様々な要素が複雑に絡み合うものとして捉えます。場合によっては時空間を越えて影響を与えあう全体を1つの「システム」と見なします。(例えば2019年12月に中国・武漢で確認されたウィルスが、2021年4月現在のわれわれの生活に影響を及ぼしているように)

ここで、システム思考に対する私の理解を具体化して述べるとこのような内容になります。

――日々の業務やプロジェクトの現場においても、活動の成否は自社・他社のプロジェクトメンバーの行動結果のみならず、様々な環境要因にも影響される。その中で「自分の役割」に没入してしまうことは「学習障害」であり、自分と他人が相互に影響を与え合う存在であることに注意を向ける必要がある。

この構造の理解が重要である理由は、チームにとって自分たちの問題の解決は、自分たちの考え方と表裏一体であるという点に尽きる。そしてまた、他者の成功なくして自分の成功もなく、プロジェクトの成功にも強く影響するものである。

他の4つのディシプリンについても、1つでも欠けると組織の成長は難しくなります。

中でも重要な要素は①自己マスタリーです。

自己マスタリーとは、自分が心からめざしたいもの、ビジョンに絶えず焦点を当てたり、新たに焦点を当て直したりするプロセス(自分自身の「あり方」)であるとされます。「学習する個人」なくして「学習する組織」は成立しません。だからこそ、個人の問題である自己マスタリーを組織が強制することは逆効果であり、リーダーにできるのは、メンバーが成長できる環境を整えることであると本書では指摘します。

その他、②メンタル・モデルでは、われわれが暗黙のうちに前提としている考え(潜在意識、固定観念)を明らかにし開放すること、システム思考と統合することの重要性が説明されます。

また③共有ビジョンでは、その前提として個人のビジョンがありますが、ビジョンが共有されていれば人々はつながり、共通の志によって団結することが可能となります。

④チームの学習では、組織の学習の縮図になり得ることから、チーム活動にはディスカッションとダイアログが必要だとし、特にダイアログ(各自が前提を留保し、仲間として行動し、振り返る)を通して、一人では達成できない深い洞察に到達することができると指摘しています。

本書については、SOLジャパン他、言及しているサイトも多数あるので参照されることをお勧めします。また、同じ出版社から『「学習する組織」入門』というコンパクトなバージョンも出ています。

おわりに

前編でご説明した「組織学習に課題が残った」プロジェクトですが、現在はその後続工程に入っています。課題を感じた頃から、われわれのチームでは隔週の”振り返り会”を実施しており、KPT(Keep, Problem, Try)の観点でメンバーは自己の行為を振り返り、次の行動につなげていこうというものです。

私自身もKPTで業務内容を振り返りますが、同時にチームとして学習できたかも確認するよう心がけています。例えば、少し背伸びして新しい業務を遂行できたか、わからないことへ質問が発せられたか、失敗が失敗と認識され報告されたか、自分で改善案を持っているか等々。メンバーと私の間で対話を重ね実践に移したことで、少しずつ、しかし着実に前工程の課題を解消する方向で活動できるようになってきていると感じます。

今回ご紹介した3冊の本が、私と同じような境遇の“悩めるリーダー”たちの参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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